大判例

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大阪高等裁判所 平成2年(ネ)865号 判決

控訴人

江原美耶子

中田敏

井上博

坂本昌子

右控訴人四名訴訟代理人弁護士

松井忠義

山川元庸

被控訴人

畑律子

畑倉治

畑信三

中川益枝

右被控訴人四名訴訟代理人弁護士

宮崎裕二

宮崎陽子

右訴訟復代理人弁護士

今村峰夫

吉田之計

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人らと控訴人らとの間の原判決添付物件目録一記載の土地についての賃貸借契約における賃料が昭和六三年四月一日以降年額金七〇万〇五〇〇円であることを確認する。

三  被控訴人らの控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを四分し、その一を被控訴人らの連帯負担とし、その余を控訴人らの連帯負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの控訴人らに対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張及び証拠関係

次に付加、訂正する以外は原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

原判決二枚目裏五行目の「から」の次に「各完済まで」を加え、同三枚目表五行目の「三月」を「その年の三月末日」と改め、同七行目の「取得し」の次に「、賃貸人の地位を承継し」を、同一一行目の「取得し」の次に「、本件土地の賃借人の地位を承継し」を、同末行の「けれども」の次に「、」を、同裏六行目「七日に」の次に「他の控訴人らの代理人でもある」を、同九行目の「対して、」の次に「右賃料増額の効力を争い、」を、同一〇行目の「従って」の次に、「、昭和六三年分、平成元年分の賃料については」を、それぞれ加え、同一二行目から同末行の「別紙物件目録一記載の土地」を「本件土地」と、同四枚目表三行目の「弁済期」を「弁済期日の翌日」と、それぞれ改め、同行の「から」の次に「完済まで借地法所定の」を加え、同四行目の「遅延損害金」を「法定利息」と改め、同一〇行目の「四月一日から」の次に「翌年三月末日まで」を加え、同裏一行目の「六二年」を「六三年」と改め、同行の「被告井上博」の前に「他の控訴人らの代理人でもある」を、同九行目の「記録中の」の次に「原、当審における」を、それぞれ加える。

二  控訴人らの主張

原判決は昭和六三年六月一日現在の本件土地の継続賃料を金七〇万〇五〇〇円とした鑑定人松宮恵司の鑑定結果(以下「松宮鑑定」ともいう。)を採用して適正賃料額を認定しているが、右賃料額は以下の諸点によれば、高額に過ぎるというべきである。

すなわち、本件土地の賃貸借契約は契約締結後約六二年も継続し、居住用の本件建物敷地として利用されているもので、松宮鑑定の採用する期待利回り年四パーセントは長年にわたる土地利用の実情に合わず、借地権割合五〇パーセントも芦屋税務署発行の路線価一覧表(〈証拠〉)による本件土地付近の借地権割合六〇パーセントと対比して低すぎるというべく、前回の昭和六一年の賃料増額時には従前の約三二パーセントもの割合による増額がなされたのに、その後、あまり期間を経過せずに今回の賃料増額請求がなされており、近時の急激な地価上昇があったとしても、それを賃料にそのまま反映させるのは居住者に過ぎない控訴人らには酷であり、また、控訴人らの借地である本件土地と同様の立地、賃借期間、借地面積、路線価等をもつ近隣の訴外内藤利子の借地の賃料は昭和六三年で3.3平方メートル当たり月額四七〇円である(〈証拠〉参照)のと比べても、松宮鑑定による適正賃料額七〇万〇五〇〇円(3.3平方メートル当たり月額六八九円)は、均衡を失している。加えて、控訴人らは昭和五六年までは被控訴人らの請求する賃料をそのまま支払ってきたが、昭和五七年以降は被控訴人らから毎年のように一方的な賃料増額請求が繰り返され、昭和六一年に被控訴人らから提起された訴訟(神戸地裁尼崎支部昭和六一年(ワ)第五二七号事件)では、主位的には賃貸借契約の更新を拒絶するとともに本件建物収去と本件土地の明渡しを、予備的には増額後の賃料が年額二七〇万六一〇〇円であることの確認と更新料として四一九万四〇〇〇円の支払いを求めていたもので、被控訴人らの賃料増額請求の真意が本件土地の明渡しにあることは明らかというべきで、本訴においても、被控訴人らは、控訴人らに対し、後に撤回したとはいえ、原審継続中に賃料増額の意思表示をしたうえで、平成元年四月一日以降は本件土地の賃料額が年額九七万円であることの確認も求め、さらに、原判決言渡し直後の平成二年四月六日付で同月一日以降の本件土地の賃料額を年額一〇五万〇七五〇円に増額する旨の意思表示をしたうえ、同月一四日、新たに賃料増額請求訴訟(神戸地裁尼崎支部平成二年(ワ)第二二八号事件)を提起するに至っており、これらの訴訟経緯に鑑みると、被控訴人らの請求する本訴における増額後の賃料額は賃借人である控訴人らに有利に認定されるべきものである。

理由

一当裁判所は主文の限度で被控訴人らの請求を正当と判断するものであって、その理由は次のとおり付加、訂正する以外は原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

1  原判決四枚目裏末行の「貢」を「井上貢」と改める。

2  同五枚目表二行目の「よれば」の次に「、所有目的とされる建物は非堅固な建物であり、」を加え、同三行目の「一〇年であった」を「一〇年と定められたが、借地法により二〇年とされ、その後、二〇年毎に法定更新されてきている」と、同四行目から五行目の「乙第四号証の一ないし四、被告井上博本人尋問の結果」を「乙第二、第四、第一〇号証(第二号証は原本の存在も含む。)」と、同五行目の「四月末日」を「三月末日」と、それぞれ改め、同六行目の「認められる」の次に「(控訴人井上博の原審における供述中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして直ちに採用しがたい。)」を、同末行の「結果」の次に「並びに弁論の全趣旨」を、同行の「時期から」の次に「昭和六三年六月一日までに」を、同裏二行目の「なって」の次に「おり、同年四月一日までに、消費者物価指数(全国・総合)が1.006倍、六大都市住宅地地価指数が1.48倍になり、本件土地付近の標準地の地価公示価格は昭和六三年一月は昭和六一年一月の約1.96倍となって」を、同四行目の「被告井上博」の前に「他の控訴人らの代理人でもある」を、同七行目の「被告」の前に「原審における」を、同一〇行目の「本件土地の」の前に「近隣土地の取引価格と公示地の公示価格を基準に各種補正、修正を加え、本件土地の地上建物の用途、構造、老朽化の程度等の利用効率を考慮した使用減価割合を五〇パーセントとみて、一平方メートル当たりの価格三七万七五〇〇円を求め、」を、それぞれ加える。

3  同六枚目表五行目、七行目、九行目の「金」の前にいずれも「年額」を、同末行の「個別性」の次に「(投資対象としての危険性、流動性、管理の困難性、資産としての安全性等)」を、それぞれ加える。

4  同七枚目表四行目の次に改行のうえ「控訴人らは、松宮鑑定が借地権割合を五〇パーセントとしているのは、芦屋税務署発行の路線価一覧表によれば本件土地付近の借地権割合が六〇パーセントとされていることと対比しても低すぎる旨主張し、これに沿う証拠として乙第七号証を提出するが、相続税評価の借地権割合は、もともと課税目的のために設定されたもので、借地権の内容が堅固建物所有を目的とするものと非堅固建物所有を目的とするものの区別がなされておらず、両者の区別を考えれば、本件土地のような非堅固建物所有を目的とするものの借地権割合が六〇パーセントであるとの取引慣行が成立しているとはにわかに認めがたく、また、成立に争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件土地上の本件建物は相当古く、物理的残存耐用年数はあるものの経済的残存耐用年数はないことも認められ、これらに照らせば、松宮鑑定が採用した本件土地の借地権割合五〇パーセントが不合理とは到底いいがたい。」を加え、同五行目、六行目を「なお、松宮鑑定の鑑定評価時点は昭和六三年六月一日とされており、本訴では昭和六三年四月一日時点における適正賃料額を定めるのであるから、両者は時点が多少ずれるが、認定の対象となる賃料は一括支払いがなされる年額賃料であり、右二か月程度の時点の相違では、時点修正まで加える必要はないというべきである。」と改め、同九行目の「四月」の次に「一日」を、同一二行目の「及び」の次に「原審における」を、同行の「四月」の次に「一日」を、同裏二行目の「四月」の次に「一日」を、同行の「三月」の次に「末日」を、同三行目の「四月」の次に「一日」を、同四行目の「三月」の次に「末日」を、同四行目の次に改行のうえ「ところで、借地法は、賃料増額請求の裁判が確定するまでは、賃借人はその相当と認める賃料を支払えば足りるとし、判決確定の場合に、賃借人に賃料の不足額に年一割の割合による支払期後の利息の支払義務を認めている(同法一二条二項参照)のであるから、被控訴人らの右賃料差額支払義務は未だ履行期が到来していないことは明らかである。なお、前掲甲第二号証、当審における控訴人井上博本人尋問の結果によれば、控訴人らは、昭和六三年一月二九日に言い渡された判決により確定された昭和六一年六月一日以降の本件土地の賃料年額五八万八〇〇〇円と従前の年額四四万四〇〇〇円の差額については、右裁判確定後、被控訴人らからの請求に応じて支払っており、本訴においても、増額後の賃料と供託額との差額については裁判確定後に支払う意思を有していることが認められ、右認定事実によれば、前記認定の増額賃料と供託額との差額について、被控訴人らが控訴人らに対して予め支払いを求めるまでの必要性は認められないというべきである。」を、それぞれ加える。

二よって、被控訴人らの控訴人らに対する請求は本件土地の賃料が昭和六三年四月一日以降年額七〇万〇五〇〇円であることを確認する限度で理由があるから認容すべきであり、その余は、増額賃料と供託額との差額支払請求部分を含めていずれも失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九三条一項但書、九二条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川恭 裁判官福富昌昭 裁判官岡原剛)

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